次世代エネルギー輸送と造船:LNG・水素・アンモニア船関連銘柄

世界の物流と経済活動を支える海上輸送。その根幹をなす造船業は、地球環境保全への意識の高まりや急速なデジタル技術の進展を受け、大きな変革の時代を迎えています。
日本の造船関連企業は、長年にわたり培ってきた技術力と経験を活かし、将来の海事社会に向けた取り組みを進めています。
高効率な省エネ船舶の開発はもとより、LNG(液化天然ガス)をはじめ、アンモニアや水素といった次世代クリーンエネルギーを活用する船舶の実用化に向けた動きが加速。CO2排出量実質ゼロを目指すゼロエミッション船の研究開発や、IoT、AI技術を活用したスマートシップ、自動運航システムの構築など、新しい技術開発が各社で進められています。
本記事では、こうした動きをリードする日本の代表的な造船関連企業に着目。各社が持つ独自の強みや先進技術、環境問題へのアプローチを紹介します。
日本の重工業をリードする三菱重工業グループは、長い歴史を持つ造船事業において、時代のニーズに応じた取り組みを進めています。
2018年には船舶海洋事業部を再編し、エンジニアリングと艤装(ぎそう)を主とする三菱造船株式会社と、大型船建造や機能ユニット製造を担う三菱重工海洋鉄構株式会社を設立しました。これにより、各社の専門性を活かした事業推進体制を構築しています。
三菱造船株式会社は、1世紀以上にわたる造船技術と経験を基盤に、海洋調査船やケーブル敷設船といった特殊船、海上保安庁向けの巡視船などを多数建造。近年では、最新鋭の省エネ船型を採用した大型カーフェリーも手掛けています。
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同社は船舶建造に加え、船型開発力や解析技術を活かしたエンジニアリングサービスを国内外の造船所に提供。さらに、燃料ガス供給装置(FGSS)やSOxスクラバーといった環境対策製品も取り扱い、マリンソリューションの提供にも注力しています。
脱炭素化に向けた次世代技術への取り組みとして、クリーンエネルギーの一つとされるアンモニアを燃料とする大型輸送船の共同開発を進め、設計基本承認を取得しました。
また、船上CO2回収プラントや液化CO2輸送船の開発など、CCS/CCUS(二酸化炭素回収・貯留/利用)バリューチェーン構築に関連する技術開発にも注力しています。
川崎重工業の船舶海洋事業は、陸・海・空の広範な事業領域において、特にエネルギー輸送と環境技術の分野に取り組んでいます。
同事業の大きな柱の一つが、LNG運搬船の建造です。1981年に欧米以外の造船会社として初めてLNG運搬船を建造して以来、実績を重ねています。
その技術力は、貨物タンクの大型化を可能にするストレッチタンクの採用や、モス型LNG運搬船にDFD電気推進システムを搭載した事例などがあり、これらは燃費性能にも関連しています。
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加えて、独自開発の「川崎パネル方式」防熱システムは防熱性向上とLNG蒸発率低減を目指したものであり、タンクの幅や長さを変えずに積載容量を約15%増加させた新形状モス型タンクなども開発しています。
さらに、カーボンニュートラル社会の実現に向けた取り組みの一つとして、世界で初めて液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」を開発。
マイナス253℃という極低温の液化水素を安全かつ大量に長距離海上輸送する技術開発を進め、初の国際航海を行いました。これは、将来の水素エネルギーサプライチェーン構築に向けた重要な一歩と位置づけられます。
同社はゼロエミッション船、自動運航船といった次世代船舶の開発も進めています。
1853年の石川島造船所創業を原点とし、日本の近代化と共に歩んできた総合重工業メーカー「IHI」。その歴史は造船業から始まり、現在ではエネルギー、社会インフラ、産業システム、航空、宇宙など多岐にわたる事業領域で事業を展開しています。
IHIグループの子会社である株式会社IHI原動機は、創業の系譜につながる舶用事業を展開しています。
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具体的には、IHI原動機が環境負荷低減に配慮した二元燃料機関(デュアルフューエルエンジン)など、船舶用エンジンを提供しています。
また、作業船などに向けた中速ディーゼルエンジン、Z型推進装置「Zペラ」、高効率な電子制御燃料噴射装置(コモンレールシステム)なども提供。これらの製品群は、船舶の性能向上と環境対応を意図して開発されたものです。
IHIは、造船技術を基盤とした技術力を有し、社会課題の解決を目指すESG経営を推進しており、各事業分野において事業活動に取り組んでいます。
>>IHIの企業情報
名村造船所は、日本の海事産業の発展に関わってきた歴史ある企業の一つです。
同社の事業は、主に船舶の建造を行う「新造船事業」、船舶の修繕や解体を手掛ける「修繕船事業」、そして橋梁や水門といった鉄鋼構造物や舶用関連機械の製造・販売を行う「鉄構・機械事業」、その他事業の4つのセグメントで構成されています。
これらによって海事産業を軸としながらも、関連分野へ多角的に事業を展開しています。
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新造船事業では、鉄鉱石や穀物などを運搬するバルクキャリアー(ばら積み運搬船)や、石油製品を運ぶタンカーなどを主な対象として建造。これら船舶には、大型のケープサイズやパナマックスサイズ、特定航路向けに設計されたWOZMAX型など、多様なサイズや型の船舶が含まれます。
修繕船事業においては、関連会社である「佐世保重工業株式会社」や「函館どつく株式会社」を通じて、さまざまな種類の船舶の修繕および解体作業を実施しています。
世界的に環境規制が強化される流れの中で、船舶業界全体として、環境負荷の少ないエコシップや運航効率を高めるスマートシップの開発が進められています。
国際的な競争環境のもと、名村造船所はこれらの新造船事業、修繕船事業を通じて、海事及び関連産業のニーズに応えています。
内海造船は、中型船舶の建造を主力とし、顧客一人ひとりの細かな要望に応じたオーダーメイドに近い船づくりで知られる造船会社です。
特に、一隻ごとに仕様が異なるフェリーや自動車運搬船、RO-RO船(貨物を積んだトラックやトレーラーをそのまま輸送できる船舶)といった、きめ細やかな対応と高度な設計・建造技術が求められる船種の建造を得意としています。
その中でも中・小型フェリーは国内で多くの建造実績があります。
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また、省エネルギー性能と環境負荷低減を目指したエコシップの開発・設計にも注力しており、「ISHIN船型」や「STEP(実海域省エネ装置)」をはじめとする省エネ技術を採用しています。さらに、高齢者や車椅子利用者に配慮したバリアフリー設備の導入など、社会的なニーズへの対応も行っています。
近年では、同社初となるLNG(液化天然ガス)を燃料とするフェリー「さんふらわあ かむい」の建造や、防衛省向けの特殊な輸送船の建造など、新しい分野や技術的な課題を含むプロジェクトにも取り組んでいます。
物流業界では、トラックドライバー不足などを背景としたモーダルシフト(輸送手段の転換)の動きがあり、RO-RO船の需要に注目が集まっています。