業務用SaaS・アプリケーション銘柄:バックオフィス業務を変革する企業の成長戦略

企業の生産性向上と競争力強化の鍵を握るデジタルトランスフォーメーション(DX)。
その推進力として、今や業務用SaaS(Software as a Service)は不可欠な存在です。バックオフィス業務の効率化から、営業支援、さらには企業全体の経営基盤の変革に至るまで、クラウド上で提供される多様なサービスが企業の成長を加速させています。
各SaaS提供企業は、会計・人事労務といった特定領域の深化、スモールビジネスに特化した統合型ERPの提供、ノーコード・ローコードによる開発の民主化など、独自の戦略とテクノロジーを武器にしのぎを削っています。
本記事では、業務用SaaS市場の最前線でイノベーションを追求する国内上場企業たちに焦点を当て、その多岐にわたる取り組みを紹介します。
オービックビジネスコンサルタント(OBC)は、基幹業務システム「奉行シリーズ」で知られ、近年は特にクラウドサービスであるSaaS型ERP「奉行クラウド」を中核に事業を展開しています。
同社は会計、販売管理、人事労務といった企業の主要業務に対応するシステムを提供し、業務の標準化や自動化、連携機能などを通じて顧客企業の生産性向上と業務効率化を支援しています。
また上記の機能だけでなく、会計士や税理士といった職業専門家との強固な連携モデルもOBCのSaaS事業の特徴のひとつです。
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「奉行クラウド」では専門家向けに無償ライセンスを標準提供し、リアルタイムなデータ共有による業務効率の大幅な向上を実現しています。これは他社クラウドサービスにはないOBC独自の取り組みであると説明されています。
製品ラインナップも幅広く、エンタープライズ向けの「奉行V ERPクラウド」はグループ経営やグローバル対応を支援し、基幹業務の周辺業務に対応する「奉行Edge」サービスを提供しています。また、中小企業向けには「奉行iクラウド」シリーズも提供しています。
OBCはテクノロジーを活用し、顧客企業の業務効率化や経営力強化をサポートしていく方針です。
ラクスは、「ITサービスで企業の成長を継続的に支援する」をミッションに掲げ、SaaS事業を主力として展開しています。
20年以上にわたるSaaS事業の歴史で培ったノウハウを基盤に、企業のバックオフィス業務やフロントオフィス業務の効率化に貢献する多様なサービスを提供。月額課金制のサブスクリプション型ビジネスモデルにより、安定的な収益を確保しつつ継続的な成長を実現しています。
同社のクラウド事業の顔となっているのが、「楽楽精算」をはじめとする「楽楽シリーズ」です。経費精算システム「楽楽精算」はSaaS型市場で一定のシェアを獲得。電子請求書発行システム「楽楽明細」や販売管理システム「楽楽販売」なども成長しています。
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他にも、長年事業の柱であるメール共有管理システム「Mail Dealer」なども展開。企画から開発、サポートまで一貫して自社で行い、顧客の声を迅速に反映することで、高い顧客満足度と継続率に繋げています。
ラクスは、主力製品で得た収益を次なる成長プロダクトへ投資する循環型の事業戦略を特徴とし、複数の成長エンジンを保有しています。既存事業のノウハウを活かして関連領域へ巧みにサービスを拡大する展開力も強みです。
また、同社は全国に拠点を設けており、近年はベトナムやインドネシアに開発子会社を設立するなどグローバルな開発体制も強化しています。クラウド事業は引き続き好調に推移しており、同社は今後も企業の成長を支えるITサービスを提供し続ける方針です。
Sansanは、「出会いからイノベーションを生み出す」をミッションに掲げ、企業のDXを促進する多様なSaaSサービスを提供しています。
同社は、営業活動や請求書・契約業務といったアナログなプロセスに残る非効率を、独自の技術でデジタル化することにより排除し、企業やビジネスパーソンの価値創出を後押し。将来的には、提供するサービス群がビジネスフローの前提となる「ビジネスインフラ」へと進化することを目指しています。
その中核を成すのが、法人向け名刺管理サービス市場で売上高シェア84.1%と圧倒的なシェアを誇る営業DXサービス「Sansan」です。名刺情報のみならず、顧客との多様な接点情報を一元化し、企業独自のデータベース構築を支援します。
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また、インボイス制度に対応しクラウド請求書受領サービス市場でトップシェアを持つ「Bill One」は請求書業務を、契約データベース「Contract One」は契約管理業務をそれぞれ効率化。これらのサービスの根底には、アナログ情報を高精度かつ迅速にデジタル化する同社独自の技術力があります。
Sansanは、研究開発部による先進技術(生成AIなど)の活用や、実験的な機能を迅速に開発する「Sansan Labs」の取り組みを通じて、常にサービスの進化を追求。各サービス間の連携も強化し、単独利用を超える相乗効果を生み出すことで、顧客への提供価値を高めることを目指しています。
同社は高いブランド認知度と信用性、そして強固な財務基盤を背景に、M&Aも視野に入れた積極的な成長戦略を展開しています。
フリーは、「スモールビジネスを、世界の主役に。」をミッションに掲げ、SaaS型のクラウドサービスを開発・提供しています。
同社のビジネスモデルは月額課金制のサブスクリプション型であり、安定的なストック収益を積み上げながら、現在は事業拡大に向けた先行投資フェーズにあります。
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その中核となるのは、会計、人事労務、販売管理といった多岐にわたる業務データを単一データベースで一元管理する「統合型クラウドERP」という独自のアーキテクチャです。
主力製品である「freee会計」はクラウド会計ソフト市場でトップシェアを誇り、「freee人事労務」と共にスモールビジネスの基幹業務を支えています。これらの統合型サービスは、業務間のデータの分断を解消し、一度の入力で関連業務へリアルタイムに反映されるため、バックオフィス業務の大幅な効率化と経営状況の可視化を実現します。
さらに、AIを活用した契約書リスクチェック機能を備える電子契約システム「freeeサイン」や、M&Aを通じてラインナップに加わった請求書処理自動化サービス「sweeep」など、サービスの範囲を積極的に拡大しています。
有料課金ユーザー企業数やARPU(1ユーザーあたりの平均収益)、ARR(年間経常収益)といった主要な経営指標は堅調な成長を示しており、同社はスモールビジネスの成長を継続的に支援するプラットフォームとしての進化を目指しています。
マネーフォワードは、主にバックオフィス業務のデジタル化を支援するSaaSを開発・提供しています。
主力サービス群『マネーフォワード クラウド』は、会計・確定申告から人事労務、法務に至るまで20以上のプロダクトを擁し、サブスクリプションモデルで提供。現在は中長期的な成長を見据えた先行投資フェーズにあります。
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同社の大きな特徴は、個々のプロダクトが独立しつつ連携可能な「コンポーネント型ERP」という思想と、SaaS基盤を活用したFintechサービスの展開。『マネーフォワード クラウド』は、共通データ基盤上で各業務データを連携させ、二重メンテナンスの工数を削減し業務効率を向上させることを狙っています。
さらに、事業用プリペイドカードやオンライン型ファクタリング、BtoB請求代行といったFintechサービスを組み合わせることで、顧客企業の資金繰り改善や新たな価値提供も追求。また、SaaS企業向けのマーケティング支援プラットフォームも展開するなど、多角的な事業ポートフォリオを構築しています。
マネーフォワードは、会計事務所など士業との強固な連携を含む多様な販売チャネルと、M&Aも活用した積極的な投資により、ユーザー基盤の拡大を進めています。
サイボウズは、グループウェアの開発とSaaS・クラウド型サービスの提供を主力事業とし、企業のDXを支援しています。
同社の収益の大部分はクラウドサービスが占めており、特にノーコード・ローコード開発プラットフォーム「kintone」を中核に据え、業務担当者自身による迅速なシステム構築と業務改善を可能にしています。
「kintone」は、その柔軟性と開発の容易さから、民間企業のみならず多くの自治体においても活用が進んでおり、事業の成長を牽引しています。
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また、大規模組織向けのグループウェア「Garoon」は高いARPA(1契約あたりの平均売上)を示し、中小企業向けの「サイボウズ Office」クラウド版は多くの契約企業に利用され、導入企業数は堅調に推移しています。
サイボウズの強みは、製品力に加え、独自の組織運営と強力なパートナーエコシステムにもあります。約500社のオフィシャルパートナーとの連携や、生成AIなど新技術領域のスタートアップへ投資する「kintone Teamwork Fund」の設立などを通じて、エコシステム全体での価値向上と持続的な成長を目指しています。